STORY

2023.05.12

特集【世界の現場へ!】

特集【世界の現場へ!】

今回は、小野ふとん店のものづくりの現場を巡る旅を特集します。買い付けや仕入れ、視察、研修……など、その目的はさまざまですが、その根底にあるのは、世界にはまだまだ素敵なもの、興味深いもの、かわいいものがあふれているという好奇心。

これまでの旅の記録写真をご紹介するとともに、小野元幹の海外旅遍歴をたどるインタビューも行いました。

 

 最もよく足を運ぶイラン。遊牧民たちが暮らすザクロス山脈は、シラーズの街から車で3時間ほど。車窓から眺める草原や夕焼け空といった自然が織りなす風景は、まさにギャッベのランドスケープ柄そのものの世界。

 

羽毛ふとんやベッドシステムなど、寝具にまつわる視察では主にヨーロッパへ。アイダーダック(羽毛)の産地、アイスランドは火山大国としても有名。溶岩でできた自然が広がり、滝や氷河などここでしかない景色に出会える。

小野 元幹と世界のこと。

新しい価値との出会いを求めて自ら世界を飛び回っている、小野ふとん店の小野元幹。学生時代のバックパッカー精神そのままに、スーツケースひとつで気軽に旅立つ小野社長に旅のスタイルと経験を聞きました。

バックパッカーから始まった海外旅

——学生時代、バックパッカーでの一人旅を経験されたそうですね。

海外志向が強かったんです。英語は超苦手なんですけど。沢木耕太郎の『深夜特急』に影響を受けて、バイトでお金を貯めて行きました。上海、香港、チベット、インド、バングラデシュ、パキスタン…。

——まさに『深夜特急』の旅のルートをなぞるように。

そうそう。バスと鉄道だけで移動して。だけど、イランへ抜ける予定がテロが起きて抜けられなくなったので、急遽、ルートを変えて中国へ。そこからキルギス、ウズベキスタン、トルクメニスタン、イラン、トルコをまわりました。

バックパッカー時代は48時間以上、ヒッチハイクで行動したことも。その気になればなんとでもなる。

——旅先で困ったことや危ない目にもあいましたか。

いろいろありました。チベットで張り切って動き回ってたら、高山病で倒れて病院で点滴を受けたり、キルギスでは偽の警官にお金を巻き上げられたり。パキスタンではすぐ隣りの街で銃撃戦も。まあ、どんなところでも行っちゃえばなんとかなるなとも思いました。ほぼテンションで乗り切るしかないんで(笑)。

——その時に巡った中央アジアの国々って、今、ギャッベの仕入れなどで出かける先に近いですね。将来を見越しての旅でもありましたか?

いえ、それは全然。父から継げと言われたこともなかったし、自分探しというのでもなく、まったく自由な旅でした。ただ、行く先々にやっぱり一人旅の日本人がいて、一緒に時間を過ごしていると「将来どうする?」みたいな話になるんです。そこから少しずつ家業のことを考えるようになったのかな。

2012年に初めてイランの遊牧地を訪問。この頃はまったくギャッベのことを知らなかったが、ここからのめり込むことに。 

海外での仕入れは失敗もたくさん

——小野ふとん店に入社後、何度も訪れているのがイランですね。

実は入社前にも、目的も聞かされずに父と一緒にイランへ行きました。軽い気持ちでついて行ったのですが、そこで今につながるギャッベの代理店の人たちにも会っているので、いま思えばあれが僕のギャッベとの出会いですね。

——では、入社後はイランで積極的に仕入れを?

積極的というと違うかな。当初は絨毯を売ったことも接客したこともなかった状況で、わけもわからず買い付けてきたので、やっぱりそういう柄はなかなか売れなかった。苦い思い出です。

——ギャッベの仕入れって柄選びや値段の交渉とかも大変そうです。

だんだんわかってきたことですけど、ギャッベの場合は意外と失敗は少ないんですよ。価格も定まっていますし、お客さまの好みもさまざまなので思いがけない柄が評判良かったりもする。交渉が必要なのはバザールで買う場合や、トライバルラグなどのノーブランドのものを買うときですね。

——イランだけでなく、ヨーロッパでの展示会にも足を運ばれています。

フランクフルトの「ハイムテキスタイル」、ハノーファの「ドモテックス」、ケルンの「国際家具見本市」は、時期を合わせて開催されるので、世界中のバイヤーが集まります。僕の場合は、パリでの雑貨見本市「メゾン・エ・オブジェ」も合わせて、10日から2週間ほどで一気にまわっていました。

——見本市での買い付けも難しそうです。

海外から仕入れるスタイルに憧れもあって、2015年にいきなり一人で行きました。けど、英語は話せないし、具体的な仕入れ目標みたいなものもなかったので、ただ見てまわるだけになっちゃった。勉強にはなりましたけどね。

——見るだけでも圧倒されそうですね。

どれも恐ろしく広大な場所で、すごい規模なんで。薦められるままに買ってしまって失敗したこともあります。世界一の知名度を誇る高級な羽毛ふとんですけど、当時の小野ふとん店では、まだそれを売り出せるだけの状況が整っていなかったんですよね。

世界の現場を見ておくことの意味

——見本市だけでなく、産地や工場などにも積極的に足を運ばれてますよね。

そうですね。産地を訪ねるときには、どんな人たちがどんな雰囲気で働いているのか、製造工程というよりも、会社の規模感や空気感に興味があります。やっぱり実際に行ってみないとわからないこともたくさんあるので

——これまで足を運んだなかで印象的だったのはどこですか。

たとえば、羽毛の視察で行った、ポーランドのマザーグース牧場はすごく印象的でした。60代ぐらいのご夫婦で経営されていて、その優しい雰囲気がいいなと思いました。世界的に知られたものを手がけていても、意外と個人で経営しているところが多いんです。ベッドの床板視察で訪ねた、ハンガリーの現場も10人くらいの職人さんでやっている町工場でした。

——実際に環境を肌で知ることで、そこで働く人たちの思いや雰囲気って伝わってくるんですね。

言語がわからなくても、ちゃんと思いがあるなとか、こだわりをもって丁寧に作っているんだなというのは感じられます。僕たちも自分たちで商品の企画をしているので、どこの国のどんな環境から素材がやってくるのかを知っておきたいし、それを自分の言葉でお客さまに伝えたい。環境に身を置かないとわからないことがたくさんあります。僕自身がちゃんと現場を見ている、それ自体に意味があると思っています。

——商品を選ぶ側としても、自分の使うものがどうやって作られているかを知りたくなります。

アイダーダックという世界最高峰の羽毛を採取する現場を、アイスランドの島まで見に行ったこともあります。渡り鳥に巣で卵を羽化させて、飛び立った後に残った羽毛を採取するんですけど、私有地なので普通にはなかなか行けない場所。そういった現場で見聞きしたことを店頭で伝えるのはもちろんですけど、他にもどういった方法があるか、考えていきたいですね。

——コロナ禍でしばらく控えていた海外仕入れですが、23年1月には久しぶりにヨーロッパへ行かれます。

コロナ以降、展示会はすべて中止になってしまって、ギャッベの買い付けでもゾランヴァリ社のスイス支社に行く機会が増えましたし、視察などもほとんどできない状況でした。今回は、初めて羽毛ふとんの生地工場に視察に行く予定ですが、また単独行動なのでドキドキしてます。通訳さんをお願いすれば問題ないと思ってますが、いい加減、「英語、勉強しろよ」って言われちゃいそうですね(笑)。